亡くなった賃借人の相続人に対する明渡請求を行った事例【建物明け渡し(立ち退き)解決事例】
要点:長年入居していた賃借人(借主)が亡くなり、相続人が誰かも分からないまま、室内の残置物・駐車場の自動車・賃料滞納が残された賃貸物件について、相続人を調査して確定し、任意交渉により解決した家主側の事例です。訴訟を提起することなく、相続人全員から「明渡及び残置物放棄確認書」を取得し、受任から約3か月で建物の明渡しと残置物(自動車を含む)の処理を完了しました。
| 物件 | 九州内の賃貸マンションの一室および附属駐車場 |
|---|---|
| 借主 | 契約から約30年間居住していた賃借人(ご逝去後、家主の方から当事務所にご相談) |
| 案件の特徴 | 長年の入居者である賃借人が亡くなり、室内には家財等の残置物、駐車場には自動車が残されたまま、賃料の滞納も発生。相続人が誰かも定まっていない状態からのスタートでした。 |
| 解決内容 | 相続人を調査・確定したうえで任意交渉を行い、訴訟を提起することなく、相続人全員から「明渡及び残置物放棄確認書」を取得。受任から約3か月で建物の明渡しと残置物(自動車を含む)の処理を完了しました。 |
1.事案の概要
依頼者である家主の方は、約30年前から所有する九州内の賃貸アパートの一室を、ある賃借人に賃貸していました。長年にわたり入居を続けていたこの賃借人が、令和8年1月にご逝去されました。
賃借人が亡くなった後も、室内には家財道具などの残置物がそのまま残され、附属駐車場には自動車が置かれた状態が続きました。加えて、賃料の滞納も生じており、家主としては物件を再び活用することができずに困っておられました。そこで、賃借人のご逝去後に、家主の方から当事務所へご相談・ご依頼をいただきました。
もっとも、賃借人が死亡した場合であっても、家主が独断で室内に立ち入って残置物を処分することは原則として「自力救済」にあたり、法律上許されていません。後日、相続人から損害賠償を請求されるおそれがあります。また、そもそも賃借権を承継する相続人が誰であるのかが判然としないという問題もありました。こうした状況の中で、当事務所が賃借人の相続人に対する明渡請求を受任しました。
2.解決までの経緯
当事務所ではまず、戸籍等の資料を取り寄せて相続人の調査を行い、賃借人の相続人(2名)を確定しました。
続いて、確定した相続人の全員に対し、賃貸借契約の内容、賃借人がご逝去された事実、室内の残置物や駐車場の自動車、そして賃料の滞納が生じている状況を丁寧にお伝えし、物件の明渡しと残置物の処理について協議を進めました。交渉を重ねた結果、相続人の全員から「明渡及び残置物放棄確認書」を取得することができました。
この確認書により、物件の明渡しに加えて、室内に残された造作・備品等の動産、および駐車場の自動車について、相続人が所有権その他一切の権利を放棄し、その処分について異議を述べないことを書面で明確にすることができました。こうして、訴訟を提起することなく、受任から約3か月という短期間で、建物の明渡しと残置物の処理を円満に完了しました。
3.本件のポイント
賃借人が亡くなっても賃貸借契約は消えず、相続人に引き継がれる
賃借人が亡くなっても、賃貸借契約(賃借権)は消滅するわけではなく、当然に相続人へと引き継がれます。したがって、家主が自らの判断で鍵を開けて室内に立ち入り、残置物を処分してしまうと、たとえ相手が亡くなった後であっても、自力救済として違法と評価され、相続人から損害賠償を請求されるリスクがあります。感情的に対応するのではなく、法的に正しい手順を踏むことが重要です。
出発点は「相続人の確定」
その第一歩となるのが、相続人を正確に確定することです。本件のように相続人が複数存在する場合には、原則として相続人全員の同意を得る必要があり、戸籍調査による相続人の特定が解決の出発点となります。
残置物(特に自動車)は所有権放棄・処分同意を書面化する
残置物(とりわけ自動車のように登録・廃車手続を伴うもの)については、後日の紛争を防ぐため、所有権の放棄と処分についての同意を書面で明確に取り付けておくことが極めて重要です。本件で取得した確認書でも、動産全般の所有権放棄に加え、自動車の廃車手続への協力を定めることで、明渡し後の処理まで見据えた解決を図りました。
協力的な相続人には、訴訟によらない早期解決が可能
相続人が協力的なケースでは、訴訟によらず任意交渉によって早期かつ低コストで解決できる場合が少なくありません。相手方のご心情に配慮した通知・交渉を心がけることも、円満な解決につながります。当事務所では、賃借人の死亡という難しい局面においても、家主の立場に立って迅速な物件の明渡しを実現しています。
よくある質問(FAQ)
賃借人(借主)が亡くなったら、賃貸借契約はどうなりますか?
賃借人が死亡しても賃貸借契約(賃借権)は消滅せず、原則として相続人へ承継されます。そのため、明渡しや残置物処理の交渉相手は相続人となり、まず相続人が誰かを戸籍調査などで確定する必要があります。
入居者が亡くなった後、大家が勝手に部屋を片付けたり残置物を処分してもよいですか?
原則としてできません。家主が独断で鍵を開けて室内に立ち入り、残置物を処分する行為は「自力救済」として法律上許されず、後日、相続人から損害賠償を請求されるおそれがあります。相続人を確定したうえで、明渡しと残置物の処分について同意を得る手続を踏む必要があります。但し、放置することにより損害が生じる場合(典型的には孤独死の場合等)は例外的に許されることもあります。
室内に残された家財や駐車場の自動車(残置物)はどう処理すればよいですか?
後日の紛争を防ぐため、相続人から所有権の放棄と処分についての同意を書面で明確に取り付けておくことが重要です。特に自動車は登録・廃車手続を伴うため、廃車手続への協力条項も含めて書面化しておくと安全です。
相続人が複数いる場合、全員の同意が必要ですか?
原則として相続人全員の同意が必要です。相続人が協力的であれば、訴訟によらず任意交渉で早期かつ低コストに解決できる場合が少なくありません。本事例でも相続人全員から明渡及び残置物放棄確認書を取得し、訴訟を経ずに解決しました。
家主・オーナー様のご相談を承ります
賃借人の死亡・相続人への明渡請求・残置物や賃料滞納のトラブルでお困りの家主・オーナー様は、家主専門の立ち退き・明渡し弁護士にご相談ください。当事務所は、家主側の立場に立った早期解決をサポートします。
※本事例は、依頼者のプライバシー保護のため、当事務所の守秘義務に抵触しない範囲で、当事者を特定し得る固有名詞や具体的事実を一部省略・抽象化して掲載しています。