民事信託による所有権移転に基づく受託者の明渡請求が認められた事例(使用貸借)【建物明け渡し(立ち退き)解決事例】
【物 件】地方都市にある戸建て住宅(依頼者の実家)
【借主・占有者】依頼者の弟及びその子
【案件の特徴】父が設定した民事信託により実家の所有権を取得した依頼者(受託者)が、占有する弟に明渡しを請求。占有者が主張する使用貸借の抗弁と、信託の有効性(訴訟信託該当性)が争点となった。
【解決内容】第一審は明渡し及び賃料相当損害金を認める全面勝訴判決。相手方の控訴後、控訴審で明渡期限を区切る和解が成立し、期限内に明渡しが完了。
【解決までの期間】受任から解決まで約2年(第一審・控訴審を通じて)
本記事の要点 民事信託により実家の所有権を受託者へ移転したことで、占有者が主張する使用貸借の抗弁(第三者に対する対抗力なし)は明渡請求を妨げないと判断され、第一審で全面勝訴。控訴審では明渡期限を区切る和解により任意の明渡しを実現しました。もっとも、専ら明渡しを目的とする信託は、訴訟信託(信託法10条)として無効となるリスクがあります。
1.事案の概要
依頼者の父は、自らを委託者兼受益者、依頼者(子)を受託者とする民事信託契約を公正証書により締結しました。これにより、依頼者の父母が長年居住してきた実家(本件建物)の所有権が、父から受託者である依頼者に移転しました。
本件建物には、依頼者の親族(依頼者の弟)とその子らが十数年にわたり居住していました。もともとは父母と同居していましたが、父が施設を出た後、母は同居する依頼者の弟との関係悪化により、追い出されるような形で本件建物を退去しました。依頼者が明渡しを求めても相手方は応じず、「父から無償で住み続けることを認められていた(使用貸借がある)」として明渡しを拒否したため、訴訟提起に至りました。
2.解決までの経緯
当職は、受託者である依頼者を代理し、所有権に基づく建物明渡しと賃料相当損害金の支払を求めて提訴しました。主な争点は、①相手方が主張する使用貸借の抗弁の当否、②信託契約が訴訟信託(信託法10条)として無効とならないか、の2点でした。
第一審裁判所は、信託契約は有効であるとしたうえで、民事信託による所有権移転によって、占有者の使用貸借の抗弁は明渡請求を妨げるものではないと判断し、明渡し及び賃料相当損害金の支払を命じる全面勝訴の判決を言い渡しました。
相手方はこれを不服として控訴しました。控訴審においては、早期・確実に明渡しを実現するため、明渡期限を区切り、期限内に任意に明け渡した場合には損害金の一部を免除するという内容で、裁判所の和解勧告がなされ、和解が成立し、相手方は期限内に本件建物を明け渡して、本件は解決しました。
3.本件のポイント
本件で重要なのは、民事信託による所有権の移転が、占有者の使用貸借の抗弁を破ったという点です。使用貸借は貸主・借主間の債権的な関係にとどまり、第三者に対する対抗力を持ちません。そのため、信託により所有権が委託者(父)から受託者(依頼者)へ移転すると、新たな所有者は前所有者が結んだ使用貸借に拘束されず、占有者に明渡しを求めることができます。本件の明渡しは、この所有権移転の効果によって導かれたものです。
もっとも、民事信託を用いれば常に同じ結論になるわけではありません。専ら明渡請求(訴訟提起)を行う目的で民事信託を利用したとみなされる場合には、信託法10条が禁じる訴訟信託にあたり、信託行為自体が無効となるリスクが生じると考えられます。本件では、信託設定に相応の実体・目的があったことなどから訴訟信託には該当しないと判断されましたが、明渡しを主目的として拙速に信託を設定すると、かえって信託の有効性全体が否定される可能性もありますので注意が必要です。
上記案件に関するQ&A
Q. 家族信託(民事信託)を使えば、建物の明渡しは必ず認められますか?
必ずではありません。信託により所有権が受託者へ移転すると、前所有者が結んだ対抗力のない使用貸借に新所有者は拘束されず、明渡しを求めやすくなります。ただし、専ら明渡し(訴訟提起)を目的として信託を設定したとみなされる場合には、信託法10条の訴訟信託にあたり、信託自体が無効となるリスクがあります。
Q. 使用貸借があると、建物の明渡しはできないのですか?
使用貸借は貸主・借主間の債権的な関係にとどまり、賃貸借と異なり第三者への対抗力がありません。そのため、所有権が第三者(本件では受託者)へ移転した場合、原則として新所有者は使用貸借に拘束されず、借主に対して明渡しを請求できることがあります。
Q. 訴訟信託とは何ですか?
主として訴訟行為を行わせることを目的とする信託をいい、信託法10条により禁止され、無効となります。明渡しだけを目的として拙速に信託を設定すると、これに該当するリスクがあります。
Q. 親族間の建物明渡しで注意すべき点は何ですか?
感情的な対立から長期化しやすく、使用貸借や権利濫用の主張が出やすい類型です。判決で権利を確定させつつ、控訴審の段階では和解により明渡期限を区切って任意の明渡しを確保するなど、事案に応じた柔軟な解決が有効です。
家族信託・民事信託を用いた実家の明渡しや、親族間の建物明渡し・立ち退きは、通常の賃貸借とは異なる専門的な検討を要します。当事務所(赤坂門法律事務所)では、建物明渡し・不動産に関する多数の案件を取り扱ってまいりました。同種のお悩みをお持ちの家主様・不動産オーナー様は、ぜひ一度ご相談ください。
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