【建物賃貸借契約条項解説】8 敷金返還債務の承継

1 はじめに

建物所有権の移転(オーナーチェンジ)等に伴い賃貸人の地位が移転した場合の敷金返還債務の帰趨は、最高裁判例が存在するとともに、改正民法により明文化されています(改正民法605条の2第4項)。
敷金返還債務が移転するのか否か、どの範囲で移転するのか、について適切な対応をとらないと、明渡の際に賃借人とトラブルになる可能性もあります。特に注意が必要です。

2 判例と改正民法の内容

  1. 建物所有権が移転した場合、賃貸人たる地位は当然に旧所有者から新所有者に移転するとともに、旧所有者に差し入れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される、というのが判例です( 最判昭44.7.17民集23-8-1610)。
  2. 他方で、旧所有者が敷金返還債務を完全に免れるかという点に関し明確に判示した判例はありませんし、現行民法にも規定はありません。
  3. 改正民法においては、賃借人が対抗要件を備えた賃貸借契約において、当該不動産が譲渡された場合には、賃貸人たる地位はその譲受人に移転すると定められています(改正民法605条の2第1項)。このとき、敷金返還債務も譲受人が承継する(同第4項)とされています。他方で、旧所有者が敷金返還債務を免れるのか規定はありません。また、旧賃貸人に対する未払債務に充当されるか否かについての規定もありません。

3 オーナーチェンジの際における望ましい対応

  1. オーナーチェンジの際の敷金返還債務の帰趨について、明確な規定はありません。したがって、敷金返還債務の帰趨やその範囲については、売買当事者間で明確に定める必要があります。
  2. 加えて、旧所有者が敷金返還義務を免れるためには、賃借人より同意を取得することが望ましいと思われます(免責的債務引受であるため)。多数の賃借人がいる物件では取得すること自体が大変ですが、明渡の際に新所有者とトラブルになったときなど、敷金返還を求められるリスクが否定できません。特に敷金が高額の場合には、面倒でも個別に同意を取得することをお勧めします。

次のページ:9.館内規則・利用規約等

目次:建物賃貸借契約条項解説

  1. 賃貸借の目的物
  2. 契約期間・更新条項
  3. 使用目的
  4. 更新料
  5. 賃料等の支払時期・支払方法
  6. 賃料改定・賃料増減請求
  7. 敷金一般
  8. 敷金返還債務の承継(本ページ)
  9. 館内規則・利用規約等
  10. 遅延損害金
  11. 賃貸人の修繕義務
  12. 契約の解除・信頼関係破壊の法理
  13. 保証金
  14. 賃借人たる地位の移転
  15. 原状変更の原則禁止
  16. 善管注意義務及び損害賠償
  17. 連帯保証人
  18. 反社会的勢力の排除
  19. 当事者双方からの期間内解約条項
投稿日時: (約6年2ヶ月前)

アクセス

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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