【建物賃貸借契約条項解説】14 賃借人たる地位の移転

条項例

第〇条(賃借権譲渡等の禁止)
  賃借人は、賃貸人の事前の書面による承諾を得ることなく、本物件の全部又は一部につき、賃借権を譲渡し、又は転貸してはならない。

1 はじめに

 民法では、賃借権の譲渡・転貸は禁止されています(民法612条1項)。また、賃貸人の承諾を得ずに行われた賃借権の譲渡及び転貸は、賃貸借契約の解除事由とされています(民法612条2項)。
 賃借権の譲渡・転貸が禁止され、無断譲渡・転貸が解除事由とされている理由は、賃貸借契約が賃借人の信用に基づくものだからです。賃借人が変更されると、物件の使用収益の態様が大きく変化し、賃貸人に損害を与える恐れが生じるためです。
 賃貸借契約書においてもこのことを明示すべきです。

2 無断転貸・譲渡による解除は常に認められるとは限らない

 但し、無断転貸や賃借権譲渡をしたからといって、常に解除が有効となるとは限らないことに注意する必要があります。すなわち、「信頼関係を破壊するものと認めるに足りない特段の事情」が存在する場合には、解除は認められません( 最判昭和46.11.4集民104-137 (判時654号57頁参照)。)。
   

3 解除の有効性が問題になるケース

(1) 株式譲渡の場合

 主に家族経営の小規模会社の株式が譲渡され、会社の経営権が別人に変更された場合など、会社の実態が実質的に変更された場合に、「賃借権の譲渡」に該当するか問題とされることがあります。
 判例( 最判平成8.10.14民集50-9-2431)は、特定の個人が経営の実権を握り、社員や役員が個人の家族等で占められている小規模な有限会社が賃借人という事案において、持分の譲渡及び役員の交替により実質的に経営者が交替しても、法人格が全く形骸化しているような場合を除き、原則として賃借権の譲渡に該当しないとの判断を示しています。したがって、単に経営主体が変更になったというだけでは、解除は認められないと考えて差支えないと思われます。
 但し、判例が指摘するような「法人格が形骸化しているような場合」、つまり、賃借人である会社としての実態がなく、実質的に個人が賃借していると認められるような場合には、事実上個人から個人へ賃借権が譲渡されたものと同視できますので、解除が認められる場合があります。
 なお、特約において「会社の経営陣が実質的に変更された場合」に解除を認める特約を締結することも当然可能ですが、この場合にも、信頼関係が破壊されたと認められる特段の事情がなければ解除は有効とならないことに留意すべきです。

(2) シェアハウス

 賃貸人に無断で物件をシェアハウスとして第三者に賃貸した場合には、無断転貸と認められます。居住用物件に契約者以外の第三者を居住させるわけですし、また、居住用建物を自分の事業に利用するわけですから、「信頼関係が破壊されたと認めるに足りない特段の事情」が認められる場合はかなり例外的な場合に限られると考えられます。ほとんどの場合で契約解除が認められると考えられます。
 なお、シェアハウスとして利用された建物については、不特定多数人が居住しているわけですから、明渡訴訟提起にあたり、事前に占有移転禁止仮処分により占有者を特定すべきです。

(3) 民泊に供した場合

 居住用物件を民泊に供した場合も、無断転貸に該当すると考えて差支えありません。シェアハウスと同様、第三者を宿泊させるわけですし、居住用物件を営業用として利用するわけですから、「信頼関係が破壊されていると認めるに足りない特段の事情」が認められることもほとんどないと思われます。
 明渡訴訟提起にあたって、事前に占有移転禁止仮処分を経るべきであることもシェアハウスと同様です。利用態様が悪質である、違法民泊であるなどの事情があるときは、断行仮処分申し立ても検討するべきでしょう。

次のページ: 15.原状変更の原則禁止

目次:建物賃貸借契約条項解説

  1. 賃貸借の目的物
  2. 契約期間・更新条項
  3. 使用目的
  4. 更新料
  5. 賃料等の支払時期・支払方法
  6. 賃料改定・賃料増減請求
  7. 敷金一般
  8. 敷金返還債務の承継
  9. 館内規則・利用規約等
  10. 遅延損害金
  11. 賃貸人の修繕義務
  12. 契約の解除・信頼関係破壊の法理
  13. 保証金
  14. 賃借人たる地位の移転(本ページ)
  15. 原状変更の原則禁止
  16. 善管注意義務及び損害賠償
  17. 連帯保証人
  18. 反社会的勢力の排除
  19. 当事者双方からの期間内解約条項
投稿日時: (約4年7ヶ月前)

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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