【賃貸借契約条項解説】16 善管注意義務及び損害賠償

【条項例】

第〇条(善管注意義務及び損害賠償)
 1 賃借人は、本物件を善良な管理者としての注意をもって占有使用するものとし、別に定める管理規約その他本物件に適用される規則や賃貸人又はその他の第三者の指示を遵守する。
 2 賃借人若しくはその同居者又は従業員が本物件に対して損害を与えた場合には、賃借人は本物件を原状に復したうえで、賃貸人に生じた損害を賠償しなければならない。
 3 本物件に使用に関し、賃借人がその責めに帰すべき事由により第三者に損害を与えた場合ときは、賃借人は、第三者に対し、その生じた損害を賠償する義務を負い、賃貸人に何らの迷惑をかけないものとする。
 

【解説】

1 はじめに

 賃貸人としては、賃貸借契約における賃借人の占有使用により、物件に損害が生じることをできるだけ避けたいところですし、また、仮に損害が生じた場合にはその賠償を求めたいところです。加えて、善管注意義務違反が生じた場合の賠償責任を明示することによりこれらの事態を避けるべきです。
  本条項は、以上のような観点から定めるべき条項といえます。

2 条項の内容

(1) まず、民法上、賃借人は当然に物件の善管注意義務を負います(民法400条)。第1項は、このことを確認した規定です。また、区分所有建物の場合において、マンション全体に適用される管理規約や、本物件の使用に関する賃貸人や賃貸人の委託を受けた管理会社の指示があれば、その内容を遵守することも善管注意義務の内容となります。条項例では、その旨明記しています(第1項)

(2) 賃借人本人ではなく、その同居者や従業員が物件に損害を与えるような行為を行った場合にも、賃借人は賃貸人に対して民法上賠償責任を負うことになります。同居者や従業員は、賃貸人との間で「占有補助者」として賃貸人の行為と同視されることがありますし、特に従業員については使用者責任(民法715条)が成立することもあります。民法上当然のことではありますが、第2項はその点を明示した規定です。

(3) 第3項は賃借人が第三者に損害を加えた場合を想定した規定です。賃借人が第三者に対して損害を与えた場合、第三者から賃貸人に対し(認められるかはともかくとして)責任追及を受ける場合があります。その場合に賃借人が自らの責任をもって解決することを定めることにより、賃貸人に生じる様々なリスクを一定程度回避することができる場合が生じます。

3 条項違反の効果

 善管注意義務違反は賃貸借契約における債務不履行事由となりますので、それ自体解除事由になりえますし、損害賠償の対象となります。但し、軽微な違反の場合には、賃貸人賃借人間の信頼関係が破壊されていないとして解除が認められないことも多いと思われます。

次のページ: 17.連帯保証人

目次:建物賃貸借契約条項解説

  1. 賃貸借の目的物
  2. 契約期間・更新条項
  3. 使用目的
  4. 更新料
  5. 賃料等の支払時期・支払方法
  6. 賃料改定・賃料増減請求
  7. 敷金一般
  8. 敷金返還債務の承継
  9. 館内規則・利用規約等
  10. 遅延損害金
  11. 賃貸人の修繕義務
  12. 契約の解除・信頼関係破壊の法理
  13. 保証金
  14. 賃借人たる地位の移転
  15. 原状変更の原則禁止
  16. 善管注意義務及び損害賠償(本ページ)
  17. 連帯保証人
  18. 反社会的勢力の排除
  19. 当事者双方からの期間内解約条項
投稿日時: (約5年1ヶ月前)

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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