【明渡請求訴訟事件の実務】7 明渡請求の当事者の検討

(1) 家賃滞納を理由とする明渡請求を行うに際して検討すべきこと

明渡請求を行うにあたり、まず検討すべきなのは、以下の内容です。

① 「誰に対して」明け渡しを請求するのか(相手方)
 →借主本人か、その家族か、その他の第三者(転借人)か、という観点からの検討です。
② 「誰が」明渡請求をするのか(請求者)
 →物件のオーナーか、管理会社か、サブリース会社か、という観点からの検討です。

(2) 「誰に対して」明渡を請求するか

ア 明渡の定義

 「明渡」とは、占有者がその建物の占有を解いて所有者・貸主が占有し得る状況にすることを意味します。
 したがって、明渡の相手方は、現に不動産を占有している者、ということになります。

イ 借主本人が相手方となる

 賃料滞納に基づく明渡請求においては、賃貸借契約が存在します。
 賃料滞納を理由として賃貸借契約が解除された場合、借主は、賃貸借契約終了に基づく目的物返還債務を負い、貸主は、目的物返還請求権としての不動産の明渡請求権を有するに至ります。
 この目的物返還債務は、借主が物件に現に居住しているか否かに関係なく認められるものです。例えば、借主が第三者に転貸しているとしても、借主が目的物返還債務を免れることはできません。借主は、貸主に対し、第三者の占有を解いたうえで、物件を貸主に返還する債務を負います。要するに、借主は、「又貸ししているから自分は関係ない」といって明渡請求を免れることはできません。
 他方で、借主と同居する家族は、相手方になりません。同居する家族は「占有補助者」といって、独立した占有を認められないためです( 近江幸治「物権法」(第4版・2020) 180頁参照)。
 また、法人が借主として物件を店舗として利用している場合、法人の役員及び従業員も、同様に「占有補助者」ですので明渡請求の相手方にはなりません。

ウ 借主以外の第三者が占有利用している場合
  • 借主が第三者に対して転貸している場合
  • 借主本人は住んでおらず、その家族だけが住んでいる場合
    (例えば、親権者が借主で、物件には未成年者が住んでいる場合)
  • 法人の社宅に、役員又は従業員のみが住んでいる場合
  • 法人が借主でその子会社が占有利用している場合
  • 借主が物件を奪われて第三者に不法占拠されている場合

 以上のように、借主本人は物件を使用しておらず、第三者のみが物件を居住・利用している場合は、借主のみならず、占有利用する第三者を明渡請求の相手方とする必要があります。これは、借主が物件を使用していない場合には、占有利用する第三者が占有権(直接占有)を有しているためです。

(3) 「誰が」請求するのか

ア 借主のみが占有している場合

 借主のみが物件を占有している場合は、貸主が、借主に対し、賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての明渡請求権を有することになります。
 したがって、貸主が請求権者となり、借主に対して明渡請求を求めることになります。
 これは、貸主がオーナー(物件所有者である場合)と、貸主が物件のサブリースを受けている場合で変わりません。

イ 第三者が占有している場合

 借主ではない第三者が物件を占有している場合には、

 ①借主に対しては、賃貸借契約に基づく目的物返還請求権としての明渡請求
 ②第三者に対しては、所有権に基づく妨害排除請求権、又は、(対抗要件を備えている場合には)賃借権に基づく妨害排除請求権としての明渡請求(民法605条の4 第2号

 以上を求めることができます。
 この点、②において、所有権に基づく妨害排除請求を求めるのであればオーナー、賃借権に基づく妨害排除請求を求めるのであれば、貸主が請求権者となります。

次のページ:【明渡請求訴訟事件の実務】8 請求権者(賃貸人・所有者)の特定(1)

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投稿日時: (約1年4ヶ月前)
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