【明渡請求訴訟事件の実務】15 訴訟手続~①訴えの提起「管轄・手数料」~

(1) 全体像

 建物明渡請求訴訟提起後、判決が下されるまでの流れは、具体的には以下のとおりです。
  ①訴えの提起
  ②第1回期日決定→被告への訴状送達
  ③第1回期日・続行期日(審理)
  ④判決又は和解、取り下げ
  ⑤上訴・上告
 今回は、このうち①訴えの提起で問題になる点のうち、「管轄」と「訴え提起の手数料」について解説します。

(2) 訴訟提起の管轄

ア 訴訟の管轄とは

 訴訟は、裁判所に訴状を提出することにより行います(民事訴訟法133条1項)。
 しかし、裁判所に訴状を提出するといっても、裁判所であればどこでも良いというものではありません。事件を管轄する裁判所に訴訟提起する必要があります。

イ 事物管轄

 地方裁判所と簡易裁判所のどちらに訴訟提起するかは、「訴訟の目的の価額」(訴額)によります。訴額は140万円以下の場合には簡易裁判所が、訴額がこれを超える場合には地方裁判所がそれぞれ管轄裁判所となります。もっとも、不動産明渡訴訟のような不動産に関する事件については、訴額に関係なく地方裁判所に訴えを提起することができます(裁判所法24条1号)。

ウ 土地管轄

 どこの裁判所に訴訟を提起すればよいかは、民事訴訟法にて「土地管轄」が定められています。原則として被告の住所又は主たる事務所に提起する必要があります(民事訴訟法4条)。一方的に訴えを提起される被告の利益を保護しようとする趣旨です。
 但し、不動産明渡請求については、明渡の対象となる不動産の所在地について土地管轄が認められます(民事訴訟法5条12号)。また、滞納賃料の請求については、原則として、賃料を受領する賃貸人の住所地に土地管轄が認められます(民事訴訟法5条1号)。賃料の支払は債権者の現在の住所地にてすることが原則であり(民法484条1項)、債権者の住所地が「義務履行地」となるためです。
 不動産の明渡請求と賃料請求を併合して訴訟提起する場合には、不動産の明渡請求と賃料請求を合わせてどちらかの管轄裁判所に一緒に提起することができます。例えば、不動産の所在地が福岡県、賃貸人が宮崎県に居住、賃借人が東京都に居住していた場合には、東京地方裁判所に明渡訴訟を提起できるほか、福岡地方裁判所でも宮崎地方裁判所でも訴訟提起することができます。
 また、賃貸借契約書等の多くに定められているとおり、管轄裁判所について合意が存在する場合には、合意された裁判所に訴訟を提起することができます(合意管轄 民事訴訟法11条)。なお、1つまたは複数の裁判所にのみ管轄を認める専属的合意管轄裁判所を定めることもでき、この場合には、合意により定められた裁判所にのみ管轄が認められます 。専属的合意管轄裁判所の定めは見落としがちですので、特に注意が必要です。

エ 異なる管轄裁判所に訴訟を提起してしまった場合の処理

 異なる管轄裁判所に訴訟を提起した場合には、管轄違いの移送(民事訴訟法16条1項)を申し立てることができます。
 しかし、管轄違いの移送手続には1か月~2か月程度かかることがあります。訴訟を取り下げたうえで正しい裁判所に訴訟提起するという処理を行う方が早いことの方が多いです。基本的には訴訟を速やかに取り下げたうえで適切な管轄裁判所に訴訟を提起することになります。

(3) 訴え提起の手数料

ア 手数料の算定基準(訴額に応じた算定)

 訴訟提起においては、訴額に応じた所定の手数料を裁判所に納める必要があります。訴額は原告が訴えをもって主張する利益により算定されます。

 不動産明渡請求訴訟における原則的な訴額の算定は、
 ①土地明渡請求の場合
  (不動産の固定資産税評価額の2分の1)×(明渡請求権の根拠となる請求権ごとに定められた割合(所有権:2分の1、賃貸借終了に基づく請求権:2分の1)を乗じた額)
 ②建物明渡請求の場合
  (不動産の固定資産税評価額)×(明渡請求権の根拠となる請求権ごとに定められた割合(所有権:2分の1、賃貸借終了に基づく請求権:2分の1)を乗じた額)
  以上のような算定方法となります。

イ 具体的な算定方法

 具体的に言えば、賃貸借契約終了に基づく明渡請求の場合、土地明渡請求の場合には、明渡対象土地の固定資産税評価額の4分の1、建物明渡請求の場合には、明渡対象建物の固定資産税評価額の2分の1が訴額となり、当該訴額に応じた手数料を裁判所に納める必要があります。
 訴額は、明渡の対象面積により決定されます。
 土地の一部の明渡を求める場合には、明渡を求める面積の割合により算定された固定資産税評価額に4分の1を乗じた金額が訴額となります。建物の一部の明渡を求める場合にも同様です。
 区分所有建物全体の明渡を求める場合には、区分所有建物の建物部分の固定資産税評価額に2分の1を乗じた金額を訴額として算定することになります。

ウ 固定資産税評価額が存在しない場合

 新築物件や過去の未評価物件など、固定資産税額が存在しない土地建物もあります。
 そのような場合には、不動産が所在する法務局が定める「新築建物課税標準価格認定基準表」を利用して物件自体の価格を算定します。この場合、訴状とともに上申書を提出して訴額を明らかにすることになります。
 なお、トランクルームの明渡請求のように、固定資産税評価額がそもそも存在しえない場合には、当該トランクルームの新品価格を参考に訴額を算定することになります。

エ 手数料の納付方法

 納付方法は、訴状に手数料相当額の収入印紙を貼付する方法により納めます。
 実務上は、貼付せずに小さな袋に入れてクリップ止めして提出することもあります。

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記事カテゴリ: コラム
投稿日時: (約4ヶ月前)
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