【明渡請求訴訟事件の実務】8 請求権者(賃貸人・所有者)の特定(1)

(1) 請求権者を具体的に検討する必要性

 「7 明渡請求における当事者の検討 」にて、明渡請求の請求権を有する人は、①賃貸人、又は、②所有権者(オーナー)と説明しました。
 ただ、ひとくちに「賃貸人」「所有者」といっても、誰が賃貸人か、誰が所有者なのか、悩む場合も少なくありません。

 例えば、
  ・賃貸借契約書に賃貸人の氏名が記載されているが、既に亡くなっている
  ・賃貸借契約当時から、所有権が変わっている。
  ・物件が共有物である

 このような場合には、果たして誰が賃貸人なのか不明の場合も多いと思います。
 そこで、今回は、「誰が賃貸人なのか」を検討します。

(2) 「賃貸人」は誰なのか

ア 原則

 賃貸人とは、「賃貸借契約の当事者である貸主」です。
 具体的にいえば、契約書の賃貸人欄に貸主として記載されている者、が、契約当時の貸主ということになります※1
 そして、以下で述べる、物件所有者が変更となった場合(オーナーチェンジ)や、別途サブリース契約書を締結して賃貸人が変更となった場合、契約書記載の貸主(個人)が死亡したという事情が無い限り、契約書の賃貸人欄に貸主として記載されている者が現時点での賃貸人と考えて差支えありません。

※1: なお、賃貸借契約はその成立に書面を必要としません(民法601条 )。したがって、厳密にいえば、賃貸借契約書に貸主として記載されていても賃貸人ではない、というケースも理論上ありえます。しかしながら、訴訟においては、賃貸借契約書と異なる意思表示がなされた特段の事情を借主が立証しない限り、契約書作成当時の賃貸人が契約書記載の賃貸人であると認定されますし、そのような場合は極めてまれなケースです(この原稿を書いている令和4年1月31日時点で経験した4000件の中にそのようなケースは1件もありません。)。
イ 例外①オーナーチェンジの場合

 賃借権が対抗要件を備えている場合、不動産が譲渡されたときは、賃貸人の地位は譲受人に移転します(民法605条の2第1項 )。したがって、オーナーチェンジの場合、譲受人(新オーナー)が賃貸人となります。

オーナーチェンジの図

 ただし、譲渡人(旧オーナー)と譲受人(新オーナー)が、賃貸人の地位を譲渡人(旧オーナー)に留保し、当該不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する場合(いわゆるマスターリース契約を別途結ぶ場合には、賃貸人たる地位は譲受人に移転しません(民法605条の2 第2項 下記図参照。)。この場合、賃貸人は譲渡人(旧オーナー)のままになり、譲渡人と賃借人との間の契約が転貸借契約(サブリース契約)、譲渡人(旧オーナー)と譲受人(新オーナー)との間にも賃貸借契約が成立(マスターリース契約)することになります。

マスターリース契約の図

イ 例外②別途サブリース契約が締結された場合

 また、オーナーチェンジを伴わなくても、所有者(従来の賃貸人)と、新賃貸人が転貸目的の賃貸借契約(マスターリース契約)を締結し、賃貸人の地位移転について賃借人が同意した場合には、賃貸人の地位は、新賃貸人(例:サブリース業者)に移転します。

マスターリース契約+賃貸人の地位移転

ウ 例外③契約書上の賃貸人が死亡している場合

 契約書に記載された賃貸人が死亡している場合には、原則としてその相続人が賃貸人となります。相続人が複数いる場合には、共同して賃貸人の地位に立つことになります(民法896条 )。
 但し、遺産分割協議の結果、または遺言等により、相続人の一人に物件の所有権が相続された場合には、(賃貸人の地位について明確な合意がなくても)当該相続人が賃貸人の地位に立つと考えられます。それが相続人間、及び、賃貸人と賃借人の合理的意思に基づくものだからです。

目次

投稿日時: (約2年2ヶ月前)

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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