【明渡請求訴訟事件の実務】14 訴訟提起にあたっての考慮事項(手段選択)

(1)賃料滞納に基づく明渡請求は訴訟提起が原則

 賃料滞納に基づく建物明渡請求を行う場合には、任意交渉を継続するとともに、可能な限り訴訟を速やかに提起すべきです。赤坂門法律事務所は、任意交渉を継続するともに、速やかに賃借人に対する訴訟提起を行うことがほとんどです。

 理由は以下のとおりです。

 ①賃料滞納に基づく明渡請求は、放置すると日々損害が発生します。賃借人が任意に退去しない場合に、できるだけ早期に強制執行手続を申し立てることができるよう、可能な限り早期に債務名義(賃借人に対して明け渡しを命じる判決)を取得する必要があります。
 
 ②任意交渉のみで明渡を実現しようとすると、退去に乗り気でない賃借人により交渉を引き延ばされる可能性があります。
 
 ③仮に任意交渉にて退去合意を取り付けたとしても、合意書に定めた退去合意が履行されない可能性があります。例えば荷物をそのままにして連絡も無く所在不明となった場合などです。この際、賃貸人側で部屋の中の荷物を撤去し、強制的な明渡を実現するためには、別途訴訟を提起する必要が生じる場合があります。
 
 ④訴訟提起後も、訴訟外で明渡交渉を行うことも可能です。また、訴訟手続きの中で合意を成立させることもできます。例えば、3か月後に退去するなど、一定期日までに退去する旨の和解を成立させたり、賃料滞納を解消すること、又は分割払いを認めることでそのまま物件への居住を認めることができる場合もあります。
 
 ⑤訴訟提起が賃借人の問題解決にとっての契機となり、膠着していた状況を打開することができることがあります。

 なお、速やかに訴訟を提起することが、賃借人を心理的に追い詰めることを心配し、訴訟提起について心理的抵抗がある管理会社様やオーナー様もいらっしゃるかと思います。
 しかし、訴訟提起を事前に予告するとともに訴訟の趣旨を説明することもあり、賃借人の心理的負担をある程度解消することもできます。
 このように、賃料滞納に基づく明渡請求については、任意交渉がまとまらないようであれば、訴訟提起を速やかに行うことが鉄則です。

(2)調停申立を行うことが適切な場合

 このように、賃料滞納に基づく明渡請求については、訴訟を行うことが鉄則ともいえ、弊事務所としても速やかに訴訟提起を行うことを推奨しています。
 しかしながら、必ず訴訟提起をしなければならないというものでもありません。
 例えば、親族間の賃貸借の場合等、訴訟提起により事態が悪化する場合、訴訟を提起した場合に抗弁が主張される可能性が高い場合などは、訴訟提起より前に調停を申し立てて早期の解決を図ることが効果的な場合もあります。

(3)早期に任意交渉がまとまった場合の対応

 交渉後速やかに任意交渉がまとまり、「1か月後に退去する。既に転居先も決まっている」といった場合には、そもそも訴訟提起も調停申立も行う必要が無いと思われます。仮に期日までに退去しない場合であっても、そこから訴訟提起しても遅延による損失はそう大きいものではないですし、また、訴訟中に退去に至るケースも多いからです。
 但し、退去日が先となっている場合(例えば1年後に退去するといった内容の合意)は、いわゆる即決和解(訴え提起前の和解)を申立て、明渡に関する債務名義を取得しておくという方法もあります。

(4)手段選択については弁護士にご相談を

 既に述べた通り、賃料滞納に基づく明渡請求においては、任意交渉と同時並行で訴訟提起を行うことが鉄則です。但し、調停申立が適切な場合もありますし、そもそも訴訟提起や調停申立が不要な場合もあります。
 ご依頼頂いた場合には、手段選択について柔軟に検討することも可能です。まずは詳しく御事情をお伺いしたうえで手段を検討していくことになると思われます。

目次

記事カテゴリ: コラム
投稿日時: (約1年11ヶ月前)

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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